2014年7月24日木曜日

企業内弁護士 ― 日米の違い

日本企業の日本の弁護士資格を持つ社内弁護士が大変な業務として口をそろえて言うのは、社内の調整である。
例えば、訴訟で和解をして終わらせようという時に、社内の決済が必要になる。何処までの社内決済が必要になるかは和解金額や、事件の大きさなどによるが、アメリカでの訴訟などになると、かなり上の人の決済まで必要になる。上の人の決済を一つもらえばそれでよいのかというとそうでないところが、辛いところである。
ポジションが少し下の人から順々に承認してもらって、最終的に上の人の決済にたどり着ける。途中に海外出張等で一週間つかまらない人がいると、決済手続きはそこで一週間ストップする。決済をもらうために、一人一人に同じ事情を説明して、承認してもらう。訴訟を担当している外部の弁護士からは、和解できるのか早く教えてほしいとせかされ、社内では、色々な事情で、和解のための決済が遅れる。こんな社内調整が弁護士の仕事なのかと嫌になることもあると言う人も多い。

アメリカの企業のアメリカの資格を持つ社内弁護士に、社内の意見の調整は大変かと聞いてみると、全く違う答えが返ってくる。責任者が決断すると、その決断により話しが進んでいくからである。一人一人の決済をもらうために、社内調整をしながら社内を駆け回る必要はないのである。

一方、アメリカの社内弁護士として何が大変か聞いてみると、今までは法律事務所を使っていたことをなるべく内部の弁護士で処理してコストを下げようという動きがあるので、社内弁護士でも訴訟について詳しくなければならないし、外部弁護士のような業務も行えなければならないことだと答えていた。大手事務所で企業法務の経験のある弁護士を企業が雇い入れる傾向はアメリカでは一般的である。


ただ、こうやって比較してみると、企業内弁護士になるなら、アメリカ企業での方がやりがいがありそうに感じるのは私だけだろうか。

2014年7月17日木曜日

大手法律事務所も天下り先!?

アメリカでは、有名な裁判官や政府機関の重要なポストについていた人が、大手法律事務所のパートナーになって、話題になることは多い。彼らは法律事務所からかなりの高給をもらっているようだ。

大手事務所としては、クライアント獲得の営業の道具としてそのような人材を獲得しようと躍起になっている。法律事務所のパートナーになろうとする元裁判官や元政府機関の高級官僚も、最初の事務所選びを間違うと大変である。最初に事務所に入るときは、大きく宣伝されやすいし、話題性も高く、ニュースにもなるので、クライアント獲得に大きく貢献できる。しかし、一旦入った事務所から他の事務所に移籍するときは、話題性も下がるので、興味を持つ法律事務所は少ない。民間事務所に入る最初の段階が一番価値が高いのである。つまり、高給を得られる。

高い給料を提示する事務所に入り、あちこち連れまわされてセミナーで話しをしている元裁判官、や元政府機関の高級官僚は多い。


これは、アメリカ特有の話かと思ったら、ある知人が、日本の知財高裁の裁判官が弁護士になるとかで、どこの大手事務所がその元裁判官を獲得するのか話題になっているという話しをしていた。

日本でもアメリカと同じようなことが起こり始めているようだ。


官僚でも、国の費用でアメリカのロースクールに留学させてもらえるチャンスがある人は大いに利用すべきだと思う。アメリカで弁護士資格を取得して、ある程度高いポジションまで登りつめて、人脈を築いた後、外国弁護士として大手事務所に雇ってもらうという可能性があるかもしれない。

これからは、大手法律事務所も天下り先の一つになる日がくるのだろうか。


2014年7月8日火曜日

これからの弁護士は組織内で渡り歩ける能力が必要

多分10年以上前までは、弁護士になる動機として、組織内で働くのがあまり好きでないことを理由とする人が結構いたのではないか。

しかし、これからは、組織内で上手に渡り歩ける能力がない人は、弁護士としてやっていけなくなるだろう。つまり、組織内で働くのが好きでないことを弁護士になる動機としてあげるのは間違っている。

アメリカの弁護士を見ていると特に思うのであるが、個性の強い人間的にも難しい弁護士とも上手に接することができ、組織内の情報収集が上手で、内部の権力闘争も把握したうえでそれに巻き込まれずに上手に渡り歩ける能力がある人は、事務所の中で着実に出世していけるが、そのような能力がない弁護士は、事務所を出ざるを得なくなることもある。

まず、アソシエイトとして事務所に入ったら、顧客を多く持つパートナーから仕事を下請けしなければならない。パートナーから仕事をもらえなければ、クライアントにチャージする時間を付けることができなくなり、上層部から見れば、チャージ時間が少なくて事務所に対する貢献度がないとみなされて、外に出される。
どのパートナーがどのような仕事をどの程度持っていて、どの程度下請けする必要があるか、そのパートナーの下で働いている弁護士は誰なのか、そのパートナーと敵対関係にある弁護士は事務所内にいるのか等、様々な情報を収集しなければならない。秘書、パラリーガル、他の弁護士などと上手にコミュニケーションしながらそのような情報を集めなければならない。

パートナーから仕事を下請けされたら、そのパートナーにとって使い勝手の良い弁護士にならなければならない。頭が良いことと使い勝手の良いことはイコールとは限らない。パートナーの間違いをクライアントの前で得意げに指摘したり、勝手にクライアントに直接コンタクトをとるなどして、パートナーに不信感を与えたりすれば、次から仕事がまわってこなくなる。自信過剰は命取りになることもある。

自分に仕事をくれるパートナーと敵対関係にあるパートナーが同じ事務所内にいる場合に、その敵対関係にあるパートナーとどのように接するかは要注意だ。
ある弁護士がアソシエイトの頃に知人から仕事の依頼を受けたときの話だ。自分に仕事をくれるパートナーの専門分野とは少しずれるからと、そのパートナーと敵対関係にあるパートナー弁護士に知人からの仕事の依頼の話を相談したら、その後、仕事をくれていたパートナーとの関係が悪くなり、最終的に、そのアソシエイト弁護士は事務所を移籍することになったそうだ。

パートナーになるためにも、パートナーとして弁護士を続けるためにも、組織内でうまく立ち回る能力が要求される。なんといっても事務所内ポリティクスを分かった上で上手に立ち回ることが要求される。


日本でも徐々に少人数の事務所の信用性が下がり、法人特に中規模から大規模の法人は小規模の事務所に重要な事件を依頼しなくなっている。昔は、こんな大企業がこんな小さな事務所に依頼し続けているのかとびっくりすることが結構あったが、弁護士の質にばらつきがでればでるほど大きな事務所を信用する傾向に拍車がかかるであろう。

事務所の経営を安定させるためにはコンスタントにリーガルサービスが必要な企業をクライアントとして獲得することであり、一生に数回弁護士が必要かもしれない程度の個人を相手にしてはいられない。個人だけを相手に仕事をするためには、絶えず違うクライアントを開拓し続ける必要がある。つまり、一般に向けた営業に時間とお金をかけなければならない。

ある程度コンスタントにリーガルサービスが必要な企業をクライアントとするためには、事務所の規模が要求される。個々の弁護士に専門性が要求されるために、専門分野拡大のために規模もかなり大きくなる。規模が大きくなれば、様々な思惑を持つ様々な弁護士と一緒に働かなければならない。規模が大きくなれば、上層部は個々の弁護士の事務所の貢献度を見るときに、どれだけ事務所に利益をもたらしているかという観点でしか見なくなる。アメリカではこの事務所への貢献というのが、幾ら事務所にお金をもたらしたかに置き換えられる。

うまく上手に泳がなければ、仕事を与えてもらえず外にはじき出される。外にはじき出された場合、弁護士になってから7年くらいまでであれば、優秀そうに見える経歴があればアソシエイトとして他の事務所に転職できるが、それ以上のキャリアを持っている弁護士は、以前の特殊な人脈を利用するか、既にクライアントを多く持っているなどの事情がない限り法律事務所に転職できない。

では、企業のインハウスとして働けばいいと思うかも知れないが、インハウス弁護士を雇う会社は規模も大きいので、組織内で生き残れる能力が必要とされるのは同じである。

組織に所属するのが苦手だからといって弁護士になる時代は終わったのではないか。

2014年7月2日水曜日

弁護士の敵は事務所内の他の弁護士かも!? ― 弁護士を使う際の注意点

アメリカのどの法律事務所に依頼しようか悩む日本の企業は多い。
その際、事務所内の弁護士の専門分野や経歴をウエブサイトで検索して調べるのが通常だろう。

立派な経歴を持つ優秀そうに見えるパートナー弁護士たち。この優秀そうにみえるパートナー弁護士A、B、C、Dに一緒に協力して仕事をやってもらえれば、鬼に金棒だ。知人がパートナー弁護士Aを知っているというから、紹介してもらってA弁護士にメールを出そう。

「こうやって、弁護士Aに仕事を依頼すれば、弁護士A、B、C、Dのドリームチームを見方につけて戦える」と信じるかもしれない。しかし、米国法律事務所はそのように運営されていないことが多い。

同じ分野のプラクティスをする有名弁護士同士は、同じ事務所で働いているにもかかわらず、競合相手である可能性も高いからだ。例えば、弁護士AとBが競合相手である場合、よほどのことがない限り、AとBが一緒に働くことはない。AとBは表面的には仲良くしながらも、AはBにクライアントを奪われないように、BはAにクライアントを奪われないように、水面下で戦っていることがある。

クライアントが望めばAとBを例えば一緒の訴訟チームとして使うことができるかもしれない。しかし、こんな問題が発生するかもしれない。
AとBともに一流の訴訟でLead counselとなった経験のある弁護士であれば、まず誰がLead counselになるのかでもめることになる。Lead counselとして有名な弁護士は、我が強いアメリカ人弁護士の中でも目立ちたがり屋が多いので、そんな弁護士が二人で違う方向に訴訟を引っ張っていけば、大変なことになる。会議が長くなり費用は高くなるかも知れないし、勝つ訴訟も勝たなくなるかもしれない。

同じ事務所の弁護士だから仲良く一緒に働くと思ったら大間違いである。船頭多くして船山に登る可能性もあるのである。アメリカの法律事務所を上手に使うには、内情を良く知ってなければならない。